東京高等裁判所 平成3年(ネ)4287号 判決 1992年4月28日
控訴人
岡村富美
右訴訟代理人弁護士
平田亮
被控訴人
高野憲章
右訴訟代理人弁護士
鈴木勝紀
主文
一 原判決を取り消す。
二 被控訴人の請求をいずれも棄却する。
三 訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。
事実及び理由
第一申立
一控訴人
主文同旨
二被控訴人
本件控訴を棄却する。
第二事案の概要
事案の概要は、次のとおり付加、訂正するほかは、原判決事実及び理由中の「第二 事案の概要」に記載のとおりであるから、これを引用する。
一原判決二枚目表五行目の「年三割」の次に「、以下「本件貸金債権」という。」を加入し、同裏一一行目の「であって」を「といえるから、本件貸金債権は」と訂正する。
二同三枚目表一〇行目の「渡した。」の次に「即ち、」を、同一一行目の「重男は」の次に「手持資金がなかったため」を各加入する。
第三争点に対する判断
一本件貸金債権の成否
<書証番号略>、証人利川雅生の証言によれば、控訴人は、昭和五六年五月二六日、被控訴人に対し、二五〇万円(内一〇万円を利息として天引き)を支払期日同年一〇月二六日、利息年四八パーセントの約定で貸し渡したこと、本件貸金債権の成立を前提として本件根抵当権設定登記手続がされたことが認められ、被控訴人本人尋問の結果中右認定に反する部分は前掲各証拠に照らしにわかに採用できず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。
二商事消滅時効の成否
前認定事実に加えて、<書証番号略>、証人利川雅生の証言、被控訴人本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、控訴人の夫である利川重男と同人の兄である利川雅生は、新潟市内のビルの一室に事務所を開き、ダイエー商事の商号を用い、当初は両名で、昭和五八年からは雅生名義で貸金業の登録を受け、共同して貸金業を営んでいたこと、両名は重男又は雅生名義で顧客に貸付けをし、手持資金が不足すると控訴人から資金の提供を受け、同人の了解のもとに同人名義でも貸付をしていたこと、これらの貸付は貸付者の名義を問わず、全てダイエー商事の貸付元帳に記載していたこと、被控訴人は、知人の佐藤健一を通じてダイエー商事に資金の融資を求め、同事務所において利川雅生と右融資の交渉をしたこと、右利川らは手持資金が不足していたため同人らから依頼を受けた控訴人が被控訴人に対し手持金から二五〇万円を貸し付けたこと、右控訴人の貸付は、ダイエー商事の貸付元帳に記載されていること、控訴人が貸主となっている貸付は、いずれもダイエー商事の業務の一環としてなされていることが認められ、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。
右認定の事実によれば、控訴人は、貸金業として、手持金から被控訴人に二五〇万円を貸付けしたものと認められる。
しかしながら、貸金業者としての控訴人の右貸付行為は、商法五〇二条八号の「両替其他ノ銀行取引」には該当せず、また貸金業者であるというだけでは商人とはいえず、その者の貸付行為を商行為と推定すべき根拠はなく(昭和二七年(オ)第八八二号同三〇年九月二七日第三小法廷判決民集九巻一〇号一四四四頁、昭和四三年(オ)第一二五六号同四四年五月二日第二小法廷判決金融商事判例一六三号九頁)、他に控訴人が商人であることを認めるに足りる的確な証拠もないから、控訴人の被控訴人に対する本件貸付行為が商行為であると認めることはできない。
したがって、被控訴人の商事消滅時効の主張は理由がない。
第四結論
よって、被控訴人の本訴請求を認容した原判決は相当でないから、原判決を取り消したうえ、被控訴人の本訴請求をいずれも棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九六条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官時岡泰 裁判官大谷正治 裁判官滝澤雄次)